泌尿器科とは
尿を生成し、それを排泄するまでに関わるとされる器官のことを総称して泌尿器といい具体的には、腎臓(腎杯、腎盂)、尿管、膀胱、尿道が対象となりますが、上記以外に男性の生殖器(前立腺、精巣、精嚢、精管、陰茎 等)を含むのが泌尿器科です。これらで起きたとされる何らかの症状や病気について診療していきます。
よくみられる症状としては、トイレが近い(頻尿)、尿が出にくい、残尿感がある、尿に血が混じっている(血尿)、夜中に何度もトイレに行く(夜間頻尿)、尿路結石で起きやすい下腹部の痛みや激しい腰痛等がある、尿に濁りや悪臭がみられる、男性器に何かしらの異常がある(勃起不全 等)といった場合に来院されることが多いです。
ちなみに当診療科の患者様の場合、症状がデリケートゾーンで起きることも少なくないので、恥ずかしがって受診をためらうケースもあります。ただ我慢をするだけでは、治療につながることはなく、症状を悪化させるだけです。ここは勇気を振りしぼって、速やかに医師による診察を受けられるようにしてください。
泌尿器科でよく見受けられる主な症状(例)
- 尿が出にくい、出ない(排尿困難)
- 尿に勢いが無い
- 尿に血が混じる
- おしっこが近い、回数が多い
- 夜間、何度もおしっこに起きる
- 尿が残っている感じがする(残尿感)
- 尿が漏れる
- 尿に血が混じる
- 足がむくむ
- 腰や背中が痛む
- 腎臓の辺りが痛む
- 尿道から膿が出た
- (健診などで)血尿(尿潜血)やたんぱく尿を指摘された
- 尿路(腎臓、尿管、膀胱)に結石がある など
男性がよく訴える主な症状
- 睾丸や陰嚢が腫れた
- 陰茎、陰嚢が痛む、かゆい
- 亀頭、包皮に水疱やいぼができた
- PSA(前立腺特異抗原)値が高いと言われた
- 男性更年期障害のような気がする ・勃起力が低下した など
泌尿器科でよくみられる疾患
血尿・尿潜血
血尿・尿潜血とは
尿中に赤血球が混じっている状態を血尿・尿潜血といいます。なお血尿は、大きく2つに分類されます。肉眼ではっきり血液が混じっていることがわかる赤褐色などの尿が排出されることがあります。これを肉眼的血尿といいます。また肉眼で見ただけではわからないとされる血尿もあります。この場合、尿中にわずかに赤血球が混じっている状態で、尿沈渣の顕微鏡検査で判明することから顕微鏡的血尿と言われますが、これを尿潜血と呼ぶこともあります。
血尿の原因については様々あります。何らかの病気による一症状のこともあれば、一過性のケースもあります。なお肉眼的血尿で、自覚症状がある場合を症候性肉眼的血尿といいます。この場合の原因としては、尿路結石症(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石 等)、膀胱炎や尿道炎等の尿路感染症などの病気が疑われます。また自覚症状が現れない場合を無症候性肉眼的血尿と言います。この場合は、悪性腫瘍(腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん 等)が考えられるほか、ナッツクラッカー症候群、腎炎等の可能性もあります。
また顕微鏡的血尿であれば、まず糸球体性血尿(腎臓にある糸球体(尿をろ過する働きをする)からの出血による血尿)、もしくは非糸球体性血尿であるかを調べます。前者であれば、腎実質に何らかの疾患(糸球体疾患:急性腎炎、慢性腎炎、IgA腎症 等)を発症している可能性があります。そのため精密検査や腎生検を行うこともあります。後者は、糸球体以外の場所からの出血による血尿です。この場合は、泌尿器科的な疾患を発症していることも考えられ、尿路上皮がん(腎盂、尿管、膀胱、尿道に発生するがん)、尿路結石などの可能性もあります。必要であれば、尿細胞診、腹部超音波検査、膀胱鏡検査等を実施するなどして、診断をつけていきます。
前立腺肥大症
前立腺肥大症とは
男性にのみ存在する臓器で、膀胱の真下で尿道を取り囲むような位置にあります。大きさはクルミ程度で、ここでは精子を保護するとされる前立腺液を分泌しています。
この前立腺が何らかの原因で肥大化することがあります。すると尿道圧迫が引き起こされ、排尿障害を引き起こすことがあります。この状態にあると前立腺肥大症と診断されます。原因の大半は加齢による増大とされ、男性ホルモンが関係しているといわれています。このように高齢男性に発症しやすいのが特徴です。
よくみられる症状は、残尿感、頻尿、尿が出にくい、尿意切迫感、夜間頻尿などです。それでも放置が続けば、膀胱からうまく尿が排出されなくなるほか、腎臓機能を低下させるなど様々な悪影響が及ぶようになります。そのため症状に気づいたら、お早めに医療機関をご受診ください。
検査について
患者様の訴えや現れている症状などから前立腺肥大症が疑われると診断をつけるための検査を行います。具体的には直腸診(肛門から指を入れ、前立腺に触れるなどする)や腹部超音波検査(腹部エコー)で前立腺の状態や大きさを確かめます。また別の病気の可能性の有無を確かめるため、尿検査や血液検査のほか、尿の勢いや残尿量、排尿時間を調べるための尿流動体検査などを行うこともあります。
治療について
症状の程度にもよりますが基本は薬物療法となります。用いられるのは、α1受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬などです。症状が重症化している場合は、手術療法が選択されます。主な治療法として、電気メスで前立腺を切除していく、経尿道的前立腺切除術(TURP)などがあります。
前立腺がん
前立腺がんとは
前立腺に発生する悪性腫瘍のことで、50歳以上の高齢男性に発症しやすいです。発症の原因としては、遺伝的要因、食生活(肉中心の食事 等)、男性ホルモンなどが関係しているといわれています。
同疾患では、発症初期は自覚症状がほぼみられません。そのため、この時点で気づくケースというのは、前立腺がん検査(採血)の結果からPSAと呼ばれる数値が異常に上昇していることで判明するようになります。ある程度まで病状が進行すると、排尿がしにくい(排尿困難)、排尿時痛、血尿、残尿感などがみられるようになります。前立腺肥大症と同様の症状が現れるので、鑑別をつけるための検査などが行われます。
また前立腺がんは、リンパ節や骨等に転移しやすく、それによる影響で骨に痛みや骨折、腰痛、脊髄麻痺などが引き起こされることもあります。先にも述べましたが、自覚症状が出にくいので何らかの症状に気づいた時は、すでに骨などに転移していたということもあるので注意が必要です。
検査について
前立腺がんが疑われる際に行われる検査は、血液検査(PSA値を調べる)、直腸診(肛門から指を挿入し、前立腺を触って硬さを調べる 等)、超音波検査(腹部もしくは経直腸的)などで診断をつけていきます。さらに進行の程度や転移の有無を確認するための検査として、MRIやCTなどを行うこともあります。
治療について
治療の方法としては、手術療法、放射線療法、ホルモン療法(ホルモンの働きを抑制する)があります。がんの進行の度合いや年齢によって治療内容は変わってきます。例えば、限局性がん(前立腺の内部にのみがんがある)であれば、前立腺全摘除術(手術療法)や放射線療法が選択され、高齢者の方であればホルモン療法等が選択されます。局所進行性がん(前立腺の外にも進行をみせているがん)では、ホルモン療法と放射線療法を組み合わせて行います。このほかリンパ節に転移、あるいは遠隔転移によるがんがあるとなれば、ホルモン療法となります。
亀頭包皮炎
亀頭包皮炎とは
陰茎の先端部分にある亀頭と、それを包む包皮が細菌、真菌等に感染し、炎症を起こしている状態を亀頭包皮炎といいます。小児男子によく見受けられますが、成人男性にも発症することはあります。
発症の原因ですが、小児では包茎がきっかけとなることが多いです。この場合は不衛生な状態になりやすく、細菌等に感染しやすいというのがあります。また成人のケースでも包茎が原因になることもあります。ただそのほか、性交渉や自慰、洗い過ぎによる過度な刺激、亀頭もしくは包皮に傷がある、免疫力の低下等によっても引き起こされます。
主な症状は、亀頭や包皮に発赤や腫れのほか、痛みなどです。場合によっては膿が溜まることもあります。また小児では発熱がみられることもあります。
治療について
細菌が原因であれば抗菌薬の内服、カンジダ等による真菌が原因であれば抗真菌薬の外用薬が用いられます。また患部を清潔にし、できるだけ刺激を受けない環境を整えることも大切です。
女性泌尿器科
女性泌尿器科とは
尿を生成し、それを排泄するまでに携わる器官のことをまとめて泌尿器あるいは泌尿器系といいます。具体的には、尿を生成する腎臓(腎杯、腎盂)、生成された尿を膀胱まで運ぶ尿管、尿を溜め、ある程度まで溜まったら排出する膀胱、さらに体外へ排出するための通路である尿道が含まれます。この泌尿器と女性の生殖器(大陰唇、小陰唇、膣 等)に何らかの症状や病気があるという場合に診療するのが女性泌尿器科になります。
つまり女性を主な対象とした泌尿器科となるわけですが、当診療科の患者様がよく訴える症状は、頻尿あるいは尿漏れです。この場合、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁の可能性が考えられ、両方とも悩んでいるという方も少なくありません。これらについては、加齢や出産の影響で、骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸 等)を支える筋肉群である骨盤底筋群が弱まるなどして、臓器が膣から飛び出してしまう骨盤臓器脱などが考えられます。
また女性器は男性器と比較すると尿道が短いので、細菌に感染しやすく膀胱炎になりやすいこともあります。これによって頻尿や排尿痛などがみられることもあります。
いずれにしても、当診療科はデリケートゾーンで発症する病気が対象になりやすいです。そのため医師に対しても恥ずかしくて打ち明けられないという方もいるかもしれません。ただそれでは、単に病状を悪化させるだけですので、どこかで踏ん切りをつけて受診する必要があります。まずはご相談という形でもかまいませんので、以下の症状にこころあたりが
あれば、お気軽にご来院ください。
女性泌尿器科でよく見受けられる主な症状(例)
- 尿が出にくい、出ない(排尿困難)
- 尿に勢いが無い
- 尿に血が混じる
- おしっこが近い、回数が多い
- 夜間、何度もおしっこに起きる
- 尿が残っている感じがする(残尿感)
- 尿が漏れる
- 尿に血が混じる
- 足がむくむ
- 腰や背中が痛む
- 腎臓の辺りが痛む
- 尿道から膿が出た
- (健診などで)血尿やたんぱく尿を指摘された
- 尿路(腎臓、尿管、膀胱)に結石がある
女性がよく訴える主な症状
- 排尿時に痛みが出る
- 腟から丸いものが脱出する
- 慢性骨盤痛症候群(明らかな原因が無いのに、下腹部痛がある) など
女性泌尿器科でよくみられる症状、疾患
頻尿
頻尿とは
頻繁に排尿がしたくなることを頻尿といいます。要因としては、水分の摂取量、年齢、季節的なものなど様々な状況や個人差などもありますが、1日8回以上の排尿があるという場合に頻尿とされています。なおトイレの回数が8回以下であったとしてもご自身にとって排尿回数が多いと感じられている場合も頻尿に含まれます。
原因に関しては、女性の主な頻尿の原因とされる過活動膀胱があります。それ以外にも、多尿があります。これは膀胱や尿道に異常はないものの1日の尿量が急激に増加している状態です。この場合、水分を多量に摂取している、薬剤(利尿薬 等)の影響、糖尿病をはじめとする内分泌疾患などの病気などによって引き起こされます。
さらに排尿時に尿をしっかり出すことができないことによる残尿の蓄積(原因は、前立腺肥大症等の排尿障害、腰部椎間板ヘルニアや子宮がん・直腸がんの手術等による膀胱の収縮神経の障害による排尿障害 など)もあります。そのほかには、膀胱炎や前立腺炎等の尿路感染症による膀胱の知覚神経の刺激による頻尿、器質的な原因はなく、検査をしても異常がみられないものの心因性によるケース(トイレが気になって仕方がない)といったこともあります。
上記に心当たりがある方はもちろん、原因はよくわからないが頻尿が気になって仕方がないという場合もお気軽にご受診ください。
尿漏れ
尿漏れとは
尿が漏れるとは、自分の意志で行っているわけではないのに尿が漏出してしまう状態のことをいいます。ちなみに尿失禁も尿漏れと同様の意味合いになります。
なお尿漏れ(尿失禁)の原因は、大きく4つに分類(腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁)されます。それぞれの病態や原因については次のとおりです。
腹圧性尿失禁
女性の尿漏れの原因で最も多いとされるタイプです。主に骨盤底筋群(膀胱、子宮、直腸、膣 等が骨盤から脱出しないように支える筋肉群)が加齢や出産などによって脆弱化したことで、腹圧上昇時(咳やくしゃみをする、重い荷物を持ち上げる 等)の尿道閉鎖が困難となって尿漏れしてしまう状態をいいます。
切迫性尿失禁
強い尿意を突然感じるので、排尿をしたいと慌ててトイレに駆け込もうとしても間に合わずに尿が漏出してしまう状態が切迫性尿失禁です。原因としては、排尿を調節する機能(脳の排尿中枢)がうまく働かないということがあります。この場合、脳血管障害等による障害ということもあります。ただ多くは、膀胱が何らかの引き金によって過敏になるなどして収縮することで、何の前触れもなく強い尿意が起きるようになります。そのきっかけは男性では前立腺肥大症、女性では骨盤臓器脱等による過活動膀胱などが挙げられます。
溢流性尿失禁
排尿をしたい意志はあるのに尿が出にくい、ただ尿は膀胱に溜まっていく一方なので、容量を超えれば少しずつ漏れ出すという状態になります。この場合、何らかの排尿障害が原因になるとされ、代表的な疾患は前立腺肥大症です。したがって男性によくみられるタイプです。そのほか、直腸がんや子宮がん等の手術による膀胱周りの神経の機能低下によって起きることもあります。
機能性尿失禁
排尿機能に異常がみられることはありません。ただ身体が不自由(歩行障害)でトイレに行くまでに時間がかかる、認知症が進行して排尿行為ができない等による尿漏れのことをいいます。
当院では、尿漏れの原因を特定させるための検査(尿検査、尿流動態検査、padテスト、膀胱鏡検査 等)を行います。その結果、尿失禁のタイプが判明すれば治療となります。例えば、腹圧性尿失禁の患者様で軽度であれば、骨盤底筋群を鍛えるための骨盤底筋訓練を行います。それでも改善しない場合は、手術療法(尿道スリング手術)が選択されます。また切迫性尿失禁であれば、薬物療法(抗コリン薬 等)などが行われます。
膀胱炎
膀胱炎とは
膀胱に炎症が発生している状態をいいます。この場合、尿道から細菌が侵入し、膀胱で感染することで発症するようになります。原因菌の大半は大腸菌です。尿道が短い女性に起きやすく、なかでも性的活動期の世代にみられやすい病気です。免疫力が低下している時に感染しやすいということもあります。
主な症状は、頻尿、排尿時の痛み、尿が混濁する、下腹部痛などが現れます。なお発熱、寒気、腰痛や背中の痛みなどの症状もある場合は、さらに上行感染し、腎盂腎炎に進行している可能性もあります。
膀胱炎が疑われる場合は尿検査を行います。尿中に膿や細菌が含まれているかを確認していきます。必要があれば膀胱鏡検査をすることもあります。
治療について
検査等の結果、細菌感染による膀胱炎であれば、抗菌薬(ニューキノロン系 等)による薬物療法が行われます。また尿と一緒に病原体も排出しやすくするため、水分を多く摂取していくことも必要です。
過活動膀胱
過活動膀胱とは
膀胱が過敏になってしまうことで、それほど膀胱に尿が溜まっていなかったとしても膀胱が収縮してしまう状態を過活動膀胱といいます。この膀胱の収縮によって、いきなり強い尿意を感じるようになります(尿意切迫感)。また何度もトイレに駆け込む(頻尿)、突然襲われる尿意に我慢できずに漏らしてしまう(切迫性尿失禁)等の症状がみられるようになります。
原因としては、神経因性と非神経因性に大きく分けられます。前者は脳血管障害等による脳にある排尿調節機能の障害などによって引き起こされます。一方の後者は、加齢をはじめ、男性であれば前立腺肥大症、女性であれば閉経等によるホルモンバランスの変化、骨盤臓器脱などによって発症するようになります。
なお診断をつけるための検査としては、過活動膀胱症状質問票(OABSS)等による問診をはじめ、尿検査、血液検査、腹部超音波検査(腹部エコー)などを行います。
治療について
治療は、行動療法と薬物療法の2通りあります。行動療法では、尿意を感じた後も排尿をしばらく我慢することで膀胱の容量を増やしていく膀胱訓練のほか、生活習慣の改善(食事面の見直し、減量をする、運動を取り入れる、禁煙の実践 等)、骨盤臓器脱が原因であれば骨盤底筋群を鍛える骨盤底筋体操を行います。薬物療法では、過剰な膀胱の収縮を抑え、尿を溜めやすくする働きをする抗コリン薬、膀胱の筋肉を弛緩させやすくするβ3作動薬などが用いられます。